脳科学のスペシャリストに聞く脳とレクリエーションの関係

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    まず篠原先生にお聞きしたのは、遊んでいるとき、人の脳はどんな活動をしているのかということ。勉強や仕事をしているときと比べて、何か違いがあるのでしょうか。

    「一般的に勉強や仕事中に比べて、遊んでいるときのほうが『やる気』が高まりやすいことが分かっています。脳の内側には、やる気や意欲を司る『線条体』という部位があるんですが、遊んでいるときは、ここが活発に活動するからですね」

    線条体。脳の中でも、あまり聞き慣れない部位ですが、一体どんな機能や役割があるのでしょうか?

    「たとえば私たちは、卵を割らずにそっと握ることができますし、一度乗り方を覚えれば、自転車だって転ばずに乗れるようになりますね。線条体は、こうした人の無意識的な行動の運動調整に関わっています。また線条体には側坐核(そくざかく)と呼ばれる部分があるんですが、ここは人の快感に関わるドーパミン神経系と強く結ばれています。つまり、線条体で『無意識的な行動』と『快感』が結びついている。だから人は特に意識せず簡単にできることに、気持ち良さを感じる。ひいては、それがやる気にも繋がっているわけです」

    確かに、私たちはスムーズに事が進まないとイライラしたり、上手にできないと落ち込んだり、投げやりな気持ちになったりします。逆に、特に大きな苦労も無くすんなりと事が運ぶと気持ちがいいですし、やる気だって継続します。ではなぜ遊びが、特に線条体の活動を高めやすいのでしょうか?

    「それは、人が物事に慣れたり、上手になったりする際の、脳の動きと関係しています。人は、考えたり実行したりと活動を起こすとき、前頭葉が活性化します。しかし、やっている事に慣れて、だんだんと上手になってくると、前頭葉の活動は沈静化し、代わりに無意識的な行動に関係する脳が活動します。つまり、このとき線条体の活動が高まるわけです。勉強や仕事は一生懸命に頭を使うわけですから、なかなか前頭葉が鎮静化とはいきません。その点、遊びはルールや動きなど基本的なことを覚えてしまえば、後は気楽に楽しむだけなので、前頭葉の活動は下がってくる。だから遊びは、他のことにくらべて線条体の活動が高まりやすいわけです」

    勉強や仕事は常に新しい知識や情報を吸収し、考え、判断することが求められますし、苦労がつきものです。いっぽうで、たとえばスキーなら、一定の経験を積むことで上手に楽しく滑れるようになりますし、TVゲームに至っては、子どもはあっという間にやり方をマスターして楽しんでいます。勉強や仕事よりも、手慣れて上手になる敷居が低い遊びのほうが、線条体の活動が高まりやすいという篠原先生の話には、納得させられるものがありました。

  • 遊び・レクリエーションが、やる気を引き起こすことは分かりましたが、同時に前頭葉の活動が下がるという話もありました。「活動が下がる」と聞くと少し不安になりますが、どんな影響があるのでしょうか。

    「実は前頭葉の活動が低下することは、人にとって脳を休める『癒し』になるんです。脳の話になると、とかく脳活のような、脳を鍛えることばかりが注目されますね。もちろん脳を鍛え頭をしっかり使うことは、認知機能低下に役立つ大切なことですが、それと同じくらい、頭を休ませることも大事なんです。そういう意味で、前頭葉の活動が沈静化しやすいレジャーやレクリエーションは、脳を休ませることに長けていると言えます。この場合の休むとは、よくスポーツ選手がゾーンに入っているという言い方をしますが、脳が極限まで集中を高め、余計なものが入ってこない状態を指しています。この状態を、我々は『アクティブ・リラックス』と呼んでいます。私たちは脳にとって癒しになる、アクティブ・リラックスの状態をもっと作るべきなんです」

    言われてみれば、勉強や仕事などで前頭葉は日々フル回転しています。たとえば週末にレクリエーションを行うことは、気持ちをリフレッシュさせると同時に、前頭葉を一休みさせ、アクティブ・リラックスの状態をつくることに役立っているようです。今回、篠原先生のお話をお聞きして、レクリエーションは心と体はもちろん、頭(脳)に対しても良い影響を与えられることを知ることができました。

    脳の構造

    ・脳の外側

    前頭葉...思考、運動、一時的な記憶に関わる

    頭頂葉...触覚などの感覚、体の動きの把握に関わる

    側頭葉...言語の理解、意味の理解、記憶に関わる

    後頭葉...視覚情報の処理、イメージに関わる

    小脳...運動の調整、知的処理に関わる

    ・脳の内側

    線条体...やる気、意欲に関わる


    noutoreku3.jpg篠原 菊紀(しのはら きくのり)

    東京大学大学院教育学研究科博士課程等を経て、諏訪東京理科大学共通教育センター教授、学生相談室長、東京理科大学総合研究機構併任教授。茅野市縄文ふるさと大使。専門は応用健康科学、脳神経科学。日常的な脳活動を研究し、その成果を地域活性化や社会的変革に生かす試みを続けている。アミューズメント、教育、自動車産業などとの共同研究も多い。著書に『バカは性格か!?』(ブックマン)、『しなやか脳でストレスを消す技術』(幻冬舎)、『仕事が変わる五つの脳グセ』(大和出版)、『脳が冴える40代からの生活習慣』(三笠書房)など多数。

    HP:「はげひげ」の脳的メモ http://higeoyaji.at.webry.info/

  • 自然体験

    人は自然の中にいるだけでストレスが低下します。これは前頭葉が活発化しながら、ストレスに関る「眼窩(がんか)部」が沈静化するためです。気分は落ち着きながら、脳はフル活動という理想的な状況が実現しやすくなります。また「かわいい子には旅をさせろ」という言葉のとおり、自然体験の活動は実施期間が長いほど、またその期間中にトラブルが多いほど、生きる力が伸びるという研究結果もでています。

    伝承遊び

    伝承遊びは、単純なルールや仕組みのツールを、いかにして楽しもうかと想像力をフルに活かして遊ぶので、脳が刺激されます。たとえばコマに紐を巻き付けるなどの面倒な作業も、すべてが準備された楽な遊びより前頭葉を活発化させます。

    創作・クラフト

    頭を使いながら両手を使って作業すると、前頭葉が活発化することも分かっています。特に創作活動は、出来上がりや次の手順を考えながら手を動かすことになるので、前頭葉が活発化しやすいです。ひとりでやるのもいいですが、みんなで楽しくおしゃべりしながら行うと、より脳が活発に活動します。

    歌やダンス

    歌やダンスといった表現活動は、感情にかかわる「大脳辺緑系」、運動にかかわる「大脳基低核」・「小脳」など、脳の内側・外側のあらゆる部分が盛んに使われることが分かっています。

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