子ども編
田上 不二夫 氏
(カウンセリング心理学者。教育学博士(筑波大学))
クラス全体の成長を促す対人関係ゲーム。子どもの個性を尊重し、先生自身が楽しむこと、オープンでフレンドリーに接することが大切です
Q子どもたちが、クラスに自然に楽しくとけ込んで行くには、どのようなレクリエーションが必要なのでしょうか?
A 「遊び」を使った対人関係ゲームの年間プログラムが必要だと思います。対人関係ゲームは、「交流」、「協力」、「連携」、「心を通わす」、「他者と折り合う」という5段階に分けられますが、学級経営という観点からは、これを3つの学期に振り分けるといいですね。
1学期は「交流」です。つまりお互いが知り合う段階です。人は初めての相手と会う時には当然緊張や不安がありますから、まずは遊びを通じてコミュニケーションを促し、緊張や不安を緩和する。これはなにも子ども同士だけでなく、先生も一緒です。子どもたちに受け入れてもらわなければなりませんからね。ここで自分が集団の一員であること、お互いが仲間なんだと意識づけることがより良い人間関係をつくるスタートになります。遊び名人の先生だと、子どもたちを一気にひきつけるようですね。
Q 2学期、3学期は、どう進めていけばよいですか
A 2学期は「協力」、「連携」、そして上手く進めば「心を通わす」段階に入ります。「協力」と「連携」には、役割分担のあるゲームが効果的です。役割を与えられると、必然的に「協力」しなければなりませんし、役割の違いによる個性が出て、自分との違いや、相手の良さに気づくきっかけになります。また、自分だけの役割が人の役に立つという喜びを知ることによって、「連携」や、相手のことに思いを至らせる、「心を通わす」ことへとつながっていきます。
3学期は「他者と折り合う」という段階ですが、ここでは役割分担や連携に加え、勝ち負けのあるゲームが適しています。勝ち負けがあると作戦を立てたり、友だちと触れ合ったり、まさに折り合いをつけたりと、いろんな要素が入ってきて、新しい体験ができます。さらに勝利すれば達成感を得られますし、例え負けたとしても仲間との連帯感を感じられるはずです。
こうしたゲームは思い出づくりにもつながりますので、そういう意味でも1年の締めくくりの3学期には適していると思います。
Q どんなゲームを選べばよいですか。お勧めのゲームを教えてください。
A 具体的にどんなゲームがお勧めかというと、「交流」ではジャンケン系の簡単なゲームがいいですね。ジャンケンなら不安や緊張とは無縁ですし、細かなルールを説明する必要もないので、全員がすぐに参加できるからです。
例えば「ひたすらジャンケン」は、1分間、次々と相手を変えてジャンケンし、勝った数を競うゲームです。そんなので盛り上がるのかと思うかもしれませんが(笑)、実際にやってみると、回数を稼ぐためにみんなあちこちに動き回り、ワイワイ楽しそうにやっていますよ。体を動かすことは不安や緊張感を取り除くのにも効果的です。
Q 集団がまとまってきてからのゲームについては、どうでしょうか。
A 集団が形成された後の「協力」「連携」では、次の段階として個の尊重へと導きます。ここでは表現系のゲームがいいですね。「わたしの木」というゲームがありますが、これは2人1組で相手の印象やイメージにあった木を探してプレゼントするもの。そのためには、相手を知ろうとする努力や理解を深めることが必要ですし、受け取る側は自分のことを知ってもらう喜びを感じることができるはずです。これは「心を通わす」ことにもつながっていきます。
Q 3学期の他者と折り合う段階のゲームについてもアドバイスをお願いします。
A 「他者と折り合う」ためのゲームは、「くまがり」がお勧めです。これは、「くま」、「きつね」、「きじ」が三すくみになって追いかけ合い、宝物を奪う鬼ごっこのようなゲームです。このゲームはルールが複雑ですが、その分ゲームの前はみんなで作戦を考えたり、ゲームが始まると声をかけ合ったり、味方を助けるために自分が犠牲になったり、相手との駆け引きを展開したりと、体と頭を同時に使ううえ、対人関係に必要な様々な要素が詰まっています。また一人ひとりに役割が与えられているので、おとなしい子でも自然と回りの友だちとかかわっていくようになります。普段は目立たない子が思わぬリーダーシップを発揮する、といったこともありますよ。
このゲームは子どもたちにも大人気で、休み時間に自発的に遊んだり、卒業生が顔を合わせると「くまがりやろうよ」などということもあります
Q 指導する際の留意点はなんですか。
A 指導するうえで留意する点は、最初にお話ししたように、まずは先生自身が子どもたちに受け入れてもらうことです。そのためにはオープンでフレンドリーな接し方が大切ですね。
もうひとつは子どもの個性を尊重することです。引っ込み思案な子は無理やり引っ張っても出てきません。それよりも、先生がそれを個性として認めることです。相手が自分を認めてくれている、あるいは集団が自分を受け入れてくれるとわかれば出てくる可能性は十分です。そもそも対人関係ゲームは個を変えるのではなく、属する集団の成長を促すことが目的です。それはゲームの中で自然に覚えていくと思います。
Q 勝ち負けのあるゲームで気をつけた方がいいことはありますか?
A なかなか難しいのが勝ち負けのあるゲームです。勝つことで得られる達成感や連帯感は重要ですが、あまりこだわりすぎるとギスギスしますよね(苦笑)。そのあたりは、勝敗に関係ないゲームとうまくバランスをとって進めていただければと思います。 何より重要なのは、先生自身が好きなゲームを見つけ、楽しむことではないでしょうか。指導者が楽しんでいれば、それは子どもたちにも伝わります。
Q 通年プログラムが予定通り進まない場合の対処法は。
A 先ほど5段階を3学期に振り分けるというお話しをしましたが、あまりこだわらなくても大丈夫です。そこは子どもたちの様子を見ながら臨機応変に進めたほうが効果的だと思います。実際に、「ジャンケン」の次に「くまがり」をやっている先生もいらっしゃいます。
私は日常的に現場に接しているわけではなく、そのあたりが研究者の限界でして(苦笑)......むしろ、毎日子どもに接している先生方のほうがいろんなアイデアが出てくると思いますよ。
日レクさんがこれまでにご提案している遊びも、工夫次第で対人関係ゲームとして使えそうですから、いろんな遊びを使って学級経営に役立てていただければと思います。
プロフィール
田上不二夫(たがみ ふじお)
1945年、東京生まれ。カウンセリング心理学者。教育学博士(筑波大学)。東京教育大学助手、筑波大学講師、信州大学助教授、筑波大学教授を経て、東京福祉大学・大学院心理学部教授、筑波大学名誉教授。日本カウンセリング学会元理事長。認定カウンセラー、上級教育カウンセラー。
著書:『対人関係ゲームによる仲間づくり--学級担任にできるカウンセリング』(編著)、『特別支援教育コーディネーターのための対人関係ゲーム 活用マニュアル』(共編著)ほか