早寝早起き

概日(がいじつ)リズム

なぜ今、「早寝早起き」が提唱されているのでしょう。この連載ではまず「ねむり」や「リズム」の基礎知識を解説し、ついで「ねむりにまつわるいくつかの誤解」を解きます。

その上で「夜ふかしはとんでもないこと」を知っていただこうと思っています。この連載が「残業することが美徳」となっている今の私たち大人の働き方を考え直すきっかけになればと思っています。

第一回の今回は「リズム」の話です。まず確認したいのは、ヒトは24時間、いつも同じに動いているロボットではないということです。ヒトはふつう夜になると眠り、朝になると目覚めます。これを「睡眠覚醒リズムの周期はほぼ1日」と表現します。ほぼ1日の周期のリズムを概日リズム(*1

と呼びます。身体の中には睡眠覚醒リズムのほかにも、概日リズムを刻むさまざまな出来事があります(図)。体温は明け方に最低となり、午後から夕方に最高となります。

これを睡眠覚醒との関連でみると、ヒトは最低体温の後に目覚め、最高体温後に眠りにつくことになります。赤ちゃんは眠くなると手足が温かくなります。これは手足の血管が開いて、熱を放出し始めたためです。つまり、手足がポカポカしてきたということは、体温が下がり始めたことになります。そして、体温が下がり始めたときに、ヒトはうまく眠ることができるのです。

酸素の毒性から細胞を守る働きのあるメラトニンは、朝目覚めたあと、14から16時間してから分泌され、成長ホルモン(*2)は寝入ってすぐの深い眠りの時期にたっぷりと出ます。夜になると自律神経のうち「副交感神経」(*3)の働きが活発となり、おなかを動かしてウンチを肛門に送り、心臓の動きはゆっくりとなって、血圧は下がります。

早寝早起き

朝が近づくと一日活動するというストレスに備えるべくステロイドホルモン(*4)が出てきます。目覚めると、「副交感神経」に代わって「交感神経」(*5)の働きが活発となり、血圧が上がり、脳や筋肉に血液が送られ、考えたり、身体を動かすのに都合がよくなります。このように、身体の働きは昼と夜とでは大違いです。ヒトは24時間いつも同じに動いているロボットではないのです。周期24時間の地球で生かされている動物なのです。

睡眠覚醒、体温、ホルモン、自律神経などは、ほぼ1日の周期(概日リズム)を刻んでいますが、これらを制御しているのが生体時計です。生体時計は誰でも脳の中に持っている時計です。脳の中の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」(*6)と呼ばれる部分にあります。この場所は、両目の真ん中の奥、頭を横から見ると耳の前の部分にあたる場所にあります。

地球の1日は24時間ですが、面白いことにヒトの生体時計の1日は、多くの方で24時間よりも少し長くなっています。つまり、1日の長さが24時間の地球で生きるためには、ヒトは自分の生体時計を地球時間に合わせなければならないのです。そこでヒトはみな毎日無意識のうちに24時間よりも長い生体時計の周期を短くして、地球の周期24時間に合わせるという作業をしているのです。

どのようにして合わせているかというと、光、食事、社会的環境を感じることによってなのです。この中で光について言えば、朝に光を浴びることで、周期が24時間よりも長い生体時計の周期は短く調整され、地球の周期24時間に合ってきます。ところが夜ふかしをして夜になっても光を浴びていると、生体時計は夜なのに、まだ昼間だと勘違いします。すると生体時計の周期はさらに長くなり、地球時間とのズレは大きくなります。生体時計と地球時間とがズレるとどうなるのでしょうか? 時差ボケと同じような状態になってしまうのです。とても体調がいいなどとは言えない状態です。

では地球時間と生体時計のズレはどのようにしたら解消できるのでしょうか? これはもちろん、早起きをして朝の光を浴びればよいのですが、夜ふかしではなかなか早起きはできません。ついつい夜ふかし朝寝坊になってしまいます。これでは時差ボケ状態は解消されず、慢性の時差ボケになってしまいます。

今回はリズムや生体時計の話のついでに、「夜ふかしはとんでもないこと」のさわりを紹介することとなりました。

*1)光・温度などの外界の周期的変化を排除した状態で生物にみられる生理活動や行動の1日周期の変動。サーカディアン-リズム。

*2)主に成長を促進するホルモン。

*3)交感神経とともに自律神経系を構成する神経。多くは交感神経と拮抗的に働く。

*4)化学構造にステロイドの基本骨格をもつホルモンの総称。

「子どもは夜になったら寝る」は誤解

前号では、大多数の方の生体時計の1日は24時間よりも長い、ということについて述べました。そして、朝に光を浴びることで、24時間よりも長い生体時計の周期は短く調整されることをお伝えしました。今回は、生体時計の性質から"夜ふかし"になりがちな生活リズムを、ヒトはいかに修正しているのかを紹介します。

実は生体時計の1日が24時間よりも長いのは、大人ばかりでなく、子どもも赤ちゃんも同じなのです。確かに生まれたての赤ちゃんでは、まだ生体時計がきちんと働いてはいないようですが、生後1ヶ月を過ぎると、赤ちゃんでも生体時計は大人と同じように24時間よりも長い周期で動きます。

ただ朝の光を使って生体時計の周期を短くする仕組みが動き出すのは生後3から4ヶ月を過ぎてからのようです。ですから、生体時計の周期を短くすることができない生後まもない頃の赤ちゃんは、生体時計の周期で24時間よりも長い分だけ、毎日少しずつ生活時間帯が遅くずれてしまうことがあります。

こんな場合、夜中に目が覚めたり、昼間に眠ってしまい昼夜逆転? と思ってしまうような場合も出てくるかもしれません。でも、この時期に赤ちゃんは、地球が「昼間は明るくにぎやかで、夜は暗く静か」であることを学んでいるのです。

そのためにも、昼間に寝ていると明るく生活騒音があり、夜に目覚めると暗く静かであるような環境にしてあげることが大事でしょう。そして、3から4ヶ月になると、朝の光を使って生体時計の周期を短くできるようになります。朝の起きる時刻と夜の寝る時刻とが次第に一定してくるのです(図)。

つまり、ヒトという動物は、生体時計の1日が24時間よりも長く作られており、朝の光を浴びないと、毎日生活時間帯が遅くずれるように作られていたのです。

一方で、いくら生活時間が遅くずれても、「子どもは夜になったら寝るもの」と思われていました。「お前は夕飯を食べ終わるか終わらないうちから、コックリ眠りよって」。こんなおばあちゃんの言葉が聞かれた時代もありました。しかし、生体時計の周期を考えると、大人も子どもも赤ちゃんも、朝の光を浴びずに過ごしてしまうと、誰でもみんな、毎日の生活リズムは遅くなり、夜ふかし朝寝坊になるようにできているのです。生体時計の性質からすると、「子どもは夜になったら寝るもの」は、大きな誤解だったのです。

では、どうして「子どもは夜になったら寝るもの」と考えられるようになったのでしょうか?

どなたでも昼間タップリと運動をすると、疲れて早く眠くなる、という経験がおありでしょう。光、食事、そして社会的環境が生体時計に影響することはすでに述べましたが、実は、昼間の活動も、生活リズムを作るうえでとても大切な要素だったのです。つまり、昼間の活動を通して、就床時刻を早めることが可能となるのです。逆を言えば、昼間に身体を動かさないでいると、疲れないため、生体時計の性質が前面に出て、夜になっても眠くならないということになります。さらに、昼間しっかりと光を浴びることで、夜のメラトニン(*)の分泌が高まるらしいことも報告されています。メラトニンには眠りを誘う働きも知られています。

さあもうお分かりですね。どうして「子どもは夜になったら寝るもの」と考えられるようになったのか。それは、昔の子どもたちは昼間の活動が保証されていたからなのです。しかし、今の子どもたちは昼間の活動が保障されなくなっているので、「疲れて眠くなる」ということが少なくなってしまったのです。その結果、生体時計の性質が前面に出て、生活時間帯が遅くずれてしまいがちになるのです。

*)目が覚めてから14~16時間して暗くなると、脳の松果体(しょうかたい)から分泌される。ヒトでは血液中濃度は、昼に低く夜に高い。抗酸化作用、性的な成熟の抑制、眠りを誘うなどの働きがある。

「睡眠時間を確保すればいつ寝てもいい」は誤解

「遅寝遅起きでも、睡眠時間を確保すれば問題ない」。多くの方がこのようにお考えなのではないでしょうか?

しかし最近、子どもの行動に関するアンケート調査を、生活習慣との関連で分析したところ、「規則正しく早く寝る」「朝早く起きる」ほうが、「睡眠時間が多い」ことよりも、子どもの問題行動を減らす可能性が高いことがわかってきました。

生体時計の性質を考えると、ヒトは朝明るくなったら目覚め、夜暗くなったら眠ることで、その能力を最大限に発揮できるのです。多くの方が感じていらっしゃる以上に、朝の光や夜の闇が大切なのです。

つまり、「睡眠時間を確保すればいつ寝てもいい」は、必ずしも正しくはないのです。ただし、誤解しないでください。睡眠時間が大切ではないといっているわけではありません。多くの方が感じていらっしゃる以上に、朝の光や夜の闇が大切なことを知っていただければと思います。

ところで、あるヒトにとって必要な睡眠時間はどのようにしたらわかるのでしょうか?実はこれを決めることはとても難しい作業なのです。

大人の場合、10時間睡眠が必要なロングスリーパー(長時間睡眠者)と、4時間で十分なショートスリーパー(短時間睡眠者)がいるように、必要な睡眠時間には個人差があります。もちろん、何歳だから何時間寝ないといけないということを、一概に決めることもできません。

では何を目安に必要な睡眠時間を考えるかといえば、それは昼間の様子です。とくに、脳と身体がいちばん活発になる午前10時から12時の間に眠気がなければ、質のよい眠りが十分にとれていると言ってよいでしょう。この時間に眠気がある場合には、要注意です。

眠りの量、質、そして生活リズムについて見直す必要があります。ただし1歳代の赤ちゃんの場合には、まだ午前中に寝てしまう場合もあります。午前10時から12時の様子で眠りの量、質、生活リズムに問題が無いかどうかを判断するのは2歳を過ぎてからということになります。なお、午後2時頃に眠くなるのは自然な眠気です。その場合は昼寝をすればよいでしょう。ただし、昼寝をする、しない、にも個人差が当然あります。昼寝はしなければいけないものではありません。

では、日本の子どもたちの眠りの現状はどうなのでしょうか?

2004年、寝る時刻が午後10時以降の赤ちゃんの割合は、日本で約5割ですが、ヨーロッパでは2割前後です。同じ年、寝る時刻が午後7時以前の赤ちゃんの割合が日本では1.3%でしたが、ヨーロッパは3割前後です。1979年には、約4割の日本の小学校4年生が午後8時台に寝ていたのですが、この割合は2002年にはわずか6%となってしまいました。逆に、1979年にはいなかった深夜0時を過ぎても起きている小学校4年生が、2002年には2%います。

2005年の小学校4年生の平均の寝る時刻は、米国で午後8時37分、中国で午後9時00分ですが、日本は午後9時40分以降です。日本の中学生は、米国よりも約30分、ヨーロッパ諸国よりも90分以上、睡眠時間が少なくなっています。台湾が日本と同じくらいでしたが、台湾は亜熱帯なので、昼寝の時間があります。

日本の中学生はとても昼寝のできる状況にないので、日本の中学生は世界で一番眠っていないことになります。さらに最近のデータでは、日本の中学生の睡眠時間は一層減っています(図)。2003年、日本の高校生は6割が午前0時を過ぎても起きていますが、米国では6割が午後11時前に、中国でも5割が午後11時前に、9割が午前0時前に寝ています。

「朝、気持ちよく起きられましたか?」の設問に、「ボーとしていた」「気分が悪かった」とを合わせた割合は、小学校5年生あたりから5割を超え、中学生以上では7~8割に達しています。2004年の東京での調査では、小学生の訴えのベスト3は「あくびがでる」(62%)、「ねむい」(58%)、「横になりたい」(47%)です。

訴えのベスト3は中学生でも同様で、特に女子中学生の81%が「ねむい」をあげています。最近、教育再生会議(*)が授業時間の10%増を提案しましたが、生徒が眠っていてはどうしようもありません。授業中にきちんと起きていられるような生活習慣を改善することが急務です。「ねむい」に続くのは、「熱心になれない」「考えがまとまらない」「イライラする」です。寝不足で心に負担が増しているのではないでしょうか?

次回は心の穏やかさを保つセロトニンという神経伝達物質について、昼間の活動との関係でご紹介します。

*)安倍晋三内閣が重要課題に掲げる「教育再生」について議論するため、2006年10月に政府に設置された有識者の会議。21世紀の日本にふさわしい教育体制を構築し、教育の再生を図っていくことを会議の目的とする。

神経伝達物質セロトニンについて

今、些細なことでキレる子どもが増えています。そうした子どもたちの多くが、寝不足であることもわかっています。では、睡眠と情緒の安定にはどのような関係があるのでしょうか。今号では、セロトニンという神経伝達物質に注目しながら、規則正しい生活リズムの重要性を考えてみました。

前回は子どもたちの夜ふかし、睡眠時間の減少を紹介しましたが、日本人全体の睡眠時間も減っています。10歳以上の5万人を対象に、5年ごとに行われているNHKの国民生活時間調査によると、1960年には8時間13分、1970年には7時間57分であった平均睡眠時間が、2005年には7時間22分になっています(表参照)。

ここ45年で51分、つまり、年平均で1.13分ずつ短くなっているのです。では睡眠時間が減ると、どのような影響が出るのでしょうか? 私はとくに「こころ」との関連で「セロトニン」という神経伝達物質に関心を寄せています。

セロトニンというのは、脳内の神経活動の微妙なバランスの維持に重要な神経伝達物質で、セロトニンが障害を起こすとさまざまな精神的な不安定をきたすことがわかっています。最近、動物実験で脳内のセロトニンの量を増やしたり減らしたりすることができるようになり、セロトニンが減らされると孤立化したり攻撃性が増したり、社会性が低下することがわかってきました。

人間でも低セロトニン症候群という病名を使って、いわゆるキレる子に近いような状態を説明しようとする研究者も出てきました。サルは集団で暮らしますが、その集団の中の1匹にセロトニンを下げる薬を打つと、そのサルは周りに攻撃的になって、グループの中の信望も下がってきます。逆にセロトニンを上げる薬を打つと、そのサルは周りにサービスが良くなって、グループの中の地位も上がってきます。このようなことを考えて、私はセロトニンをこころの穏やかさを保つ神経伝達物質と捉えています。

では、どうしたらセロトニン系の活性を高めることができるかというと、それは歩行、咀嚼、呼吸といったリズミカルな筋肉運動です。しっかりと手を振ってよく歩くこと、ハイハイすること、しっかり噛むこと、深呼吸することなどのリズミカルな筋肉運動がセロトニン系の活性を高めるのです。

つまり、寝不足や夜ふかし朝寝坊で、慢性的な時差ぼけ状態になってしまって元気がなくなると(活動量が減ると)、リズミカルな筋肉運動ができなくなって、セロトニンの働きが低下して、さまざまな精神的な不安定をきたしてしまうのではないかということをお話しているのです。

以前、体を動かして疲れたら早く眠くなることを述べました。そして今回は、セロトニンという神経伝達物質はこころの穏やかさを保つ働きがある可能性と、セロトニンの働きを高めるにはリズミカルな筋肉運動が大切なことを紹介しました。実は、セロトニンの働きは、朝の光によっても高まるのです。早起きをして朝の光を浴びることは、こころの穏やかさを保つ上でも大切だということになります。そして、最近行った調査では、早く起きた方がその日の活動量が多くなることがわかりました。

この調査対象は1から3歳の子どもたちでしたが、みなさんも早起きをしてお日様を浴びると、なんとなく気持ちが良く、元気もわいてくるという経験は多いのではないでしょうか? そして、昼間元気に身体を動かすことで、さらにセロトニンの働きは高まります。また、心地よい疲れが夜の眠りにも良い影響を与えます。昼間しっかりと光を浴びることでは、眠りを誘う働きでも知られているメラトニンの夜の分泌も高まることは、すでに5月号で紹介しました。運動をすることが、アルツハイマー病(*1)や慢性疲労症候群(*2)にかかる危険を減らす重要な要素であることもわかってきています。なにより運動は、肥満防止に大切です。

最近さかんにメタボリックシンドローム(*3)について騒がれますが、寝ないと太るということも知っておいてください。寝ると太ると思われがちですが、その時にみなさんがイメージしている「寝る」というのは、例えば休みの日にソファーに横になってポテトチップスを食べながらテレビを観ているというものです。これでは太ります。

しかしこれは、眠りではなく、ただの運動不足です。肥満防止の一番の近道は、昼間にしっかりと体を動かして、夜しっかりと寝ることです。いくら肥満対策、メタボリックシンドローム対策として運動が大切だとは言っても、夜遅くまで運動ジムで運動して、そのために夜ふかしとなり、睡眠時間を削ったのでは意味がありません。睡眠不足では血圧が上がり、糖尿病の危険が増し、太り、免疫力が下がり、老化が促進されることもわかっています。生活習慣病対策、肥満対策、メタボリックシンドローム対策としても、眠ることは大切なのです。

*1)βアミロイド蛋白と呼ばれる異常な蛋白質が脳全般に蓄積するために、脳の神経細胞が変性・脱落する病気。記憶力・判断能力・思考の過程に生じた問題によって、人が働いたり社会生活や家族に参加することが困難となる。

*2)はっきりした心理的・身体的な原因がなく、神経、筋肉の障害も認められないにもかかわらず、仕事や家事を休まなければならないような、時には寝込んでしまうような強い疲労感やだるさが半年以上も続いたり、再発を繰り返したりする。

*3)内臓脂肪型肥満(内臓に脂肪が蓄積した肥満)によって、肥満症や高血圧、高脂血症、糖尿病などのさまざまな生活習慣病が引き起こされやすくなった状態のこと。

健康な生活を送るには

4回にわたって、睡眠の重要性をはじめ、なぜ規則正しい生活を送ることが大切なのかをお伝えしてきました。

最終回となる今回は、睡眠と食事、活動の3者の関係と、大人の不規則な生活が子どもに与える影響についてお話します。 本連載を通して、多くの人が規則正しい生活を実践してくれることを願っています。

ヒトは寝て食べてはじめて活動できる動物です。活動の中身は社会活動、芸術、遊び、コミュニケーション、学問とさまざまですが、寝ないで、食べないで、活動の質が高まるわけがありません。

眠り、食事、活動。この3者の中にあって、眠りはこれまで重視されていませんでした。「できることなら眠る時間を削ってでも活動したい」「必要になれば自然に寝るだろう」。このように考えている方が多いのではないしょうか?

しかし、適切な睡眠時間が確保されなければ、食べることも、活動することもままならないことは当然です。逆に、しっかり寝て、しっかり食べれば活動できるし、しっかり寝てしっかり活動すれば、おなかも空いてくるし、しっかり食べて、しっかり体を動かせばよく眠れるのです。

このように、眠り、食事、活動の3つは、非常に密接に関係しているのです。ですから私も、寝さえすればすべてがうまくいくなどとは考えていません。寝ること、食べること、活動することはすべて密接に関係していることを強調しているのです。 それにも関わらず、実に多くの方がこの動物としての当然のことへの理解が十分ではありません。いくら勉強をしても、夜ふかしをして睡眠時間を削っていたのでは、学力向上には結びつかないのです。

また、遊びや学問といった活動の話は聞く機会が多いでしょう。食育基本法*)も制定され、食育の話を聞く機会も多いでしょう。しかし、眠りの話を聞く機会はあまり多くないと思います。今回の連載が何かの参考になればと思っています。

食をきちんとやっておられる先生の考えは「朝ごはんが大事だ。そのためには早起きしなければならない。そのためには早寝が大事だ」ということで、最終結論は「早起き、早寝、朝ごはん」という、私の最終結論と同じです。ただ、なかにはちょっと変わった先生がいて「キレない子にするための食事」などという話をする方が時々います。しかし、食だけで「キレるキレない」が決まるわけがありません。食べること、寝ること、活動することは、すべて密接に関係していることを忘れないでください。

結局大切なのは、セロトニンとメラトニンを高めることです。8か条にまとめました。参考にしていただければと思います。夜ふかしからさまざまな問題が起きることを今回の連載ではお伝えしたつもりです。夜ふかしの原因には、メディアや運動不足もありますが、なんと言っても社会の24時間化の影響が大きいと思います。ただし、これまで夜ふかしの問題点を誰も伝えてこなかったわけで、健康教育の欠如は真摯に反省すべきです。今やるべきことは、きちんと夜ふかしの問題点を多くの方にお伝えすることだと思います。

これに対する抵抗勢力には、商業主義(ゲームの売り込み、テレビ視聴率)に加え、残業が美徳となっている日本の社会通念があります。これがある限りは、夜ふかし社会から子どもたちを救いだすことは難しいと感じます。

今、日本では正社員の平均の月間労働時間が196時間です。これは所定の時間を33時間オーバーしています。また、週50時間以上勤務をしている就業者の割合も、欧米との比較で唯一25%を越え、世界一です。このような中、子どもと過ごす時間の男女差が世界中で一番多いのが日本です。このためしつけも甘く、子どもたちの自立も低いのです。残業が美徳で、大人が子どもと過ごす時間を削り、眠りをおろそかにしていることが、今の日本社会をむしばむ元凶となっているのではないでしょうか。

アメリカでは「睡眠不足は企業のリスクである」と言われはじめています。あれだけ小中高校生が寝ているアメリカでさえ、まだ睡眠不足だと言っているのです。大切なのは何と言っても「早起き、早寝、朝ごはん」です。「早寝、早起き、朝ごはん」ではありません。今日から早く寝ようと思ってもできわけがありません。生物学的にもまず、朝、早く起こして、朝の光を浴びることが大切です。

連載最後のメッセージです。「24時間働いてはいけません。24時間働くなんて、こんな危険なことはありません。注意力が散漫になり、集中力が下がり、仕事の能率が下がります。24時間起きていると、ドジッてケガしてビョーキになります」。

今後のみなさまの実践を期待いたします。

*)食育基本法
2005年6月に食育基本法が成立された。同法は前文と4章構成の全33条からなり、食育推進基本計画の策定や基本的な施策、食育推進会議などに関する事項が定められている。具体的には、食品の安全性、食事と疾病との関係、食品の栄養特性やその組み合わせ方、食文化、地域固有の食材などを適切に理解するために必要な全国的な情報提供活動や、地域における実践活動などを行う「食育」を推進していくこととしている。

プロフィール

神山 潤(こうやま じゅん)

東京生まれ。東京医科歯科大学医学部医学科卒業。 東京ベイ・浦安市川医療センターCEO、日本子ども健康科学会理事、日本小児神経学会評議員、日本臨床神経生理学会評議員、日本睡眠学会理事、子どもの早起きをすすめる会発起人。
睡眠、特にレム睡眠を脳機能評価手段の一つとして捉える臨床的な試みに長年取り組む。旭川、ロサンゼルスでは睡眠の基礎的研究にも従事。米国から帰国後、日本の子どもたちの睡眠事情の実態(遅寝遅起き)に衝撃を受け、社会的啓発活動を開始している。
主な著書に『睡眠の生理と臨床』(診断と治療社)、『子どもの睡眠』(芽ばえ社)、『眠りを奪われた子どもたち』(岩波ブックレット)、『早起き脳が子どもを伸ばす』(けやき出版)など多数。

神山 潤